吉村昭の歴史小説の舞台を歩く

小説家 吉村昭さんの読書ファンの一人です。吉村昭さんの歴史記録文学の世界をご紹介します。   

吉村昭 「わたしの普段着」・「味を追う旅」の舞台を歩く

吉村昭先生(命日7月31日)のお墓をお詣りしました

 吉村昭氏は平成18年7月31日未明に永眠されました。翌年の8月に生前に定めていた越後湯沢の墓所大野原霊苑」(湯沢町の町営墓地)に納骨されています。納骨を1年後としたのも遺言としていたからです。このことは、ご夫人の津村節子さんが吉村昭との思い出を綴った「遍路みち」(講談社文庫)に」にお書きになっています。一周忌の納骨のため骨壼を開けた瞬間、机に散った骨を無意識に口に入れる場面には胸を打たれます。

 「わたしの普段着」(新潮文庫)には、生前、吉村昭が越後湯沢に墓を建てるきっかけになった思いが綴られています、48ページの「雪国の墓」のところです。幕末にオランダ通詞をしていた堀辰之助を主人公にした歴史小説「黒船」(中央公論社)で、最愛の妻「美也」の墓に情景を重ねている記述があります。

並ぶ墓の頂きには、あたかも冠をつけたように雪がのこっている。東京で生まれ育った私には、見たこともない情景だった。爽やかな感動が胸にひろがった。美也の墓がすがすがしいものに感じられた。冬季には全く雪に埋もれている墓も春の到来とともに、雪がとけ、徐々に全身をあらわしてくる。

その時から自分の墓はぜひ雪国に、と思い、冬に雪におおわれる町の墓地に墓を建てたのだ。・・・

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自然石に自分で書いた「悠遠」という文字を彫らせただけの碑のようなもので、花立も線香立もない。

彼岸になっても雪の下に埋もれている雪国の墓はいやだ、と育子(津村節子さん)は反対したのだが、私の趣味だから、きみたちはどこでも好きな処へ墓を作れば良い、とこれも遺言にあった。(「遍路みち」)

 墓誌には戒名はありません。吉村昭の隣には「吉村節子」と朱で彫られています。

 湯沢町は、「大野原霊苑」(湯沢町の町営墓地)の入口に「作家 吉村昭氏 この大野原霊苑に眠る」という解説板を建てています。生前、吉村昭が町の人に慕われていたことがよく伝わってきます。

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作家の谷口桂子さんオススメの「しんばし」は最高でした

 お墓詣りの後、「吉村昭の人生作法」(中公新書ラクレ)という吉村昭ファンにはこの上なく嬉しい本をお書きになった作家の谷口桂子さんに情報をいただき、越後湯沢の「しんばし」というお蕎麦屋さんに行ってきました。吉村昭ご夫妻が常連だったというお店です。

 作家の谷口桂子さんは、昨年、「食と酒 吉村昭の流儀」(小学館文庫)という著書も出されていて、とても詳しいのです。プログもお書きになっているのでチェックしてみてください。

ameblo.jp

 実は、伺う前は、駅前のよくある古いお蕎麦屋さんのイメージだったのですが、来てみてビックリ。とても素敵な外観でオシャレ!。駅から少し離れていて、すでに午後2時を過ぎていたにもかかわらず、激混みという人気ぶり。

 親子2代で経営されているお店のようですが、従業員の方の応接も良く、何しろ、お蕎麦と天麩羅が最高でした。お目当てのカウンターに席を取ることができましたが、激混みだったので、残念ながら、御主人とお話しすることはできませんでした。

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 吉村昭が生前1ヶ月に1回訪れていた湯沢の町での生活ぶりは「味を追う旅」(河出文庫)の「湯沢の町の準住民」に書かれています。同じく「日本酒は花盛り」に吉村昭が好んでいた新潟県の銘酒も紹介されています。

 谷口桂子さんも著書「食と酒 吉村昭の流儀」でお書きになっているので、引用させていただきます。

同じく米どころの新潟産では、「久保田」「八海山」「白瀧」「雪中梅」「〆張鶴」をあげている。仕事場兼休養場として、越後湯沢に購入したマンションの近くの小料理屋でそれらの酒を口にした。自宅近くの吉祥寺の小料理屋で「越後鶴亀」をすすめられたが、これも新潟産で、「景虎」も愛飲していた。

越後湯沢駅吉村昭が愛飲した新潟産の銘酒をいただきました

 越後湯沢駅のショッピングモール(CoCoLo)はとても充実しています。さすが新幹線発着駅なのでそれもそのはず。特に、地酒の販売戦略はたいしたもの。店先に懐かしい風貌の昭和の某人がマスク(ここは令和)をしながら日本酒を振りかざしているのが目に入ります。

早速中に入ってみる事にしました。

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 こちらは日本酒の利き酒のできる「利酒番所」です。500円で5枚のコインと交換して、お猪口で好きなお酒が試飲できるというシステムです。つまみは「胡瓜」が100円で売られています。

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 目移りしてしまいますが、事前に吉村昭先生がご愛飲されていた銘酒を迷わずゲットすることができました。

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 最後の5枚目のコインで「景虎」をいただきました。気が焦っていたせいもあり、500円でほろ酔い気分になりました。

 果たして、吉村昭はこの場所をご存知だっただろうかと、ふと思いました。あらためて、越後湯沢は、吉村昭にとってこの上ない別荘の敵地だったに違いない。

同じフロアには、越後湯沢駅ナカ温泉「酒風呂 湯の沢」もあります。

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今回は、ここまでです。折角なので、次回は、「戦史の証言者たち」(文春文庫)の中から「山本連合艦隊司令長官の戦死」を取り上げながら、長岡市内を巡る旅をご紹介いたします。