吉村昭の歴史小説の舞台を歩く

小説家 吉村昭さんの読書ファンの一人です。吉村昭さんの歴史記録文学の世界をご紹介します。   

吉村昭「破船」がフランスで映画化

吉村昭「破船」が読まれています

 「破船」を最初に読んだのは、今から6年ほど前です。確か「羆嵐」や「漂流」を読んだ後だと思いますが、それまでは史実をもとにした記録小説のイメージを強く持っていたので、吉村昭の新たな世界観に触れたような感想を持ちました。話の中身は本当に怖かった。

 少し内容をご紹介しますと、

 座礁した船から、あらゆる物資を奪い取る。それは、極貧の村で生き抜くための、秘密の風習であり、村人は難破船を「お船様」と呼んだ。

 村に大きな恵みを与える「お船様」の訪れを村人は待ち焦がれていた。そして、ふた冬続いて「お船様」が現れたことで、村人たちから歓声が湧き上がるも、運んできたものが後に村に大きな災いをもたらすことに・・・日本の古い風習をもとに描いた作品。

 執筆の背景は、日本海沿岸に残る江戸初期の古記録などをもとに執筆された虚構作品で、破船させた積荷を奪うという風習と、疱瘡(天然痘)に罹った者を船に乗せて海に流したという記録を眼にして構想を固め、新潟県佐渡ヶ島を背景地に据えて書いたと言われています。

 この新潮文庫の表紙、めちゃくちゃ怖くありませんか。

      

2022本屋大賞「超発掘本!」に輝きました

 そして、この「破船」は、昨年度「本屋大賞・超発掘本!」に選ばれたことは皆さんも記憶に新しいのでは。推薦をされた未来屋書店宇品店の河野寛子さんのコメントも良かったですよね。ご紹介します。

 「衝撃的です。なぜこれまで映画化されてこなかったのか。いわゆるホラーとはまた違う、とてつもないイメージが描かれています。今では考えられない村社会ならではの暮らしぶりや集団の論理を、吉村昭は易しい文体で描いています。お船様が運んできたものとは、福の神か祟り神か・・・。海の向こうからやってきたウイルス禍の中、恐れの意味を理解できる今こそ、強く紹介したい一冊として取り上げました」

 確かに、コロナ禍なので、一層怖さが伝わる作品ですね。私は「読書メーター」に参加していて、いつも吉村昭ファンの感想を楽しみに読んでいるのですが、昨年から急に「破船」の感想が増え、今も続いているのに驚いています。さすが、本屋大賞

 

 新年明けてから、「吉村昭記念文学館(ゆいの森あらかわ内)」からお便りをいただきました。令和4年度企画展「翻訳されたYOSHIMURA文学」の案内です。チラシの裏には、フランス映画「Fires in the dark」のイベント情報があります。

 よく見ると吉村昭「破船」を元にしたフランス映画でした。

 漸く「破船」が映画化されたのです、それも日本ではなく、フランスで。フランスのタイトルは「DES FEUX DANS LA NUIT」。

 早速、応募したところ、運良く当選し、先日(2月26日)観ることができました。

吉村昭記念文学館」を知りたい方は、上のQRコードからどうぞ。

「破船」がフランスで映画化

 上映会の様子ですが、超満員でした。多分抽選で漏れた方も多かったのではないでしょうか。120人以上の方が参加されていたと思います。

 本編の上映の前に、監督のドミニク・リエナールからビデオメッセージがありました。

 「『破船』の翻訳本を読んで、これまで映画化されてこなかったことに驚いた。先に映画されないように、本屋に置いてあった『破船』の翻訳本を買い占めましたよ」この言葉に会場は笑いに包まれました。

 他にもフランスでは「星への旅」「水の葬列」を読んでいるそうです。

 

  

 さて、映画の舞台は、17世紀のフランス。切り立った山に囲まれた小さな海辺に一艘の小舟を操る少年が映し出されます。少年は、「破船」の主人公「伊作」に扮する「アラン」です。

 原作の「破船」にも漂う幻想的な空気は、この映画にも投影されているようでした。逆に、アランと幼なじみの女子との恋物語のシーンは、原作にはあまり描かれていなかったところです。このことは監督自身がビデオメッセージでも触れていました。

 この映画は世界45映画祭でノミネートされ、監督賞や脚本賞など45のタイトルを受賞しています。国内では4月4日に福岡市のKBCシネマ1-2で上映が予定されているようです。お近くの方はチェックしてみてください。

翻訳されたYOSHIMURA文学

 せっかく、吉村昭記念文学館に来たのだから、今回の企画展「翻訳されたYOSHIMURA文学」を見学しない訳にはいきません。

 1990年代から2000年代初頭にかけて、吉村昭の作品は海外で相次いで翻訳、出版されます。そのきっかけとなったのが、1996年にアメリカで出版された英語版「破船」でした。

 刊行後、注目を集め話題となり、多言語への出版が相次ぐことになります。現在までに10ヶ国語で刊行されています。特に、フランスでは現在までに20冊を超える吉村作品が出版されています。主に「星への旅」「水の葬列」など初期の短編だそうです。

 今回の「破船」の映画化は、2022本屋大賞「超発掘本!」のタイミングと同様に、コロナ禍というパンデミックによるところが大きいかもしれません。

 このことは、2011年3月11日に起きた東日本大震災以後、同様に「三陸海岸津波」が増版されたことと同じ傾向です。

 吉村昭の作品には国内外を問わず、災害、伝染病、そして戦争といった人類の危機に対する警鐘とも言える作品が多くあります。そうした意味でも、多くの方に吉村昭の小説をご紹介していきたいと思います。

今回の企画展は3月15日(水)までです。どうぞご覧ください。