万年筆の旅
「万年筆の旅」は、吉村昭記念文学館の広報誌の名称で、吉村昭の夫人で作家の津村節子氏による題字です。この広報誌「万年筆の旅」は吉村昭記念文学館の準備室が開設された2013年3月から発行されていて、最新刊は第15号となっています。
2006年1月、荒川区から吉村氏に、氏の功績を顕彰する文学館の構想を伝えたところ、「区の財政負担にならないこと、図書館のような施設と併設すること」を条件に設置を承認されたそうです。その半年後に吉村昭は亡くなりますが、夫人で作家の津村節子氏の協力で蔵書、原稿、愛用品などが寄託され、2017年3月に図書館「荒川区立ゆいの森あらかわ」に併設する形で吉村昭記念文学館はオープンしました。
吉村昭記念文学館ができるまでは、日暮里図書館内2階に「吉村昭コーナー」がありました。吉村昭の蔵書や直筆の原稿などがある小さなコーナーでしたが、吉村昭の小説に対する思いが伝わる素晴らしい場所でした。この小さな「吉村昭コーナー」には、2013年6月に明仁天皇陛下(現上皇陛下)も訪れていて、「万年筆の旅」第2号にも紹介されています。
私が「吉村昭記念文学館友の会」に入会したのは、準備室ができた2013年でした。下の写真の上段の紫色のものがその会員証で、2017年に開館するまでの期限付きでした。当時300人ほどいたそうです。下段の赤色のものが、2017年に開館して以降に発行された会員証です。
友の会に入会すると、「万年筆の旅」が毎回送られてきますから、吉村昭記念文学館のイベント情報を知ることができます。また、文学館に展示されている常設展示図録(144ページ)が送られてきます。そこからは、吉村昭の人間像を知ることができ、展示されている資料に解説が添えられているので、作品を深読みすることができます。
「メガネ拭きクロス」も同封されています。メガネをかけていた吉村昭には必需品のひとつだったのかも知れませんね。描かれている絵は、吉村昭の書斎から見える愛犬クッキーです。
あと、スタンド式のカレンダーも入っていました。
最新の吉村昭記念文学館news Vol.15と一緒に送られてきたのは、下の写真にある「戦後75年戦史の証言者たち(令和2年度企画展)」の図録(64ページ)です。
今回の企画展は、新型コロナウィルス感染拡大防止の折、館内展示を控え、ウェブサイトで開催されました。
ページをめくると、吉村司氏(吉村昭の長男)が寄稿した「父と戦艦武蔵」が掲載されています。
私も父の作品で何を勧めるか? と問われたら「戦艦武蔵」を筆頭に上げる。しかし、この小説が発表されてベストセラーになった時、父の純文学が好きだった小学生の私には事実だけを書いているように思えたこの作品を、これでも小説なのか? と言ってしまったことがある。しかし、そんな私が今、愛好し読み返す父の作品と言えば、圧倒的に記録小説だ。父という小説家が歴史に対峙すると、それまで本質が埋もれていた史実も生き生きと蘇ってくる。それは、多くの読者も同感されるのではないだろうか。私は親孝行ができなかったといって悔やむ息子ではないが、小説「戦艦武蔵」は最高だと、存命中の父に言えなかったことが、唯一私の悔いとなっている。
吉村昭の記録文学の原点は「戦艦武蔵」と「戦艦武蔵ノート」に書かれてあると思う。この企画展を機に改めてこの2作品を読み返そうと思っている。(出典「戦後75年戦史の証言者たち(令和2年度企画展)」)
友の会入会と同時に送られてくる「吉村昭記念文学館常設展示図録」には、「吉村作品の舞台と取材地」(A2サイズ)が挟み込まれています。以前からこうした情報が欲しいと願っていたので、これを見た瞬間、これだけでも友の会に入会した価値があると思ったほどです。
一昨年は、小説「長英逃亡」の舞台である東北地方を巡り、昨年は小説「夜明けの雷鳴」の舞台、北海道函館を歩きました。さて、今年はどこに行こうかと思いを膨らませています。これだけ作品の舞台があるとなかなか制覇するのは容易ではありませんね。